この映画を観ている間、ずっとある人のことを思い出していました。私が40代まで働いていた、地元の小さな建設会社の奥様です。私の車でよく一緒に銀行に行ったり、ご飯を食べに行ったり。歩くとき、そっと私の腕をつかむ、あの手の感触。退職してからずっと会えていなくて、お元気なら92歳になられます。映画の感想というより、これは「大切な人を思い出させてくれた映画」の話です。
- 公開:2025年11月
- 監督:山田洋次(91本目の監督作品)
- 原作:フランス映画『パリタクシー』(2022年)
- キャスト:倍賞千恵子、木村拓哉、蒼井優(若き日のすみれ役)
- 第49回日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞(倍賞千恵子)受賞
あらすじ
タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉さん)は、85歳の高野すみれさん(倍賞千恵子さん)を東京・柴又から葉山の高齢者施設まで送ることになります。「東京の見納めに、いくつか寄り道をしたい」——そんなすみれさんの願いから始まった一日。タクシーの中で少しずつ心を開いたすみれさんは、やがて自らの壮絶な過去を語り始めます。
見どころ①:倍賞千恵子さんの「目」と「声」だけで泣かされる
派手な演技は何ひとつありません。窓の外を見つめる目、過去を語るときの声のトーン——それだけでこちらの涙腺が壊されます。日本アカデミー賞最優秀主演女優賞は当然の結果だと思いました。
見どころ②:『パリタクシー』を観た人にこそ観てほしい
原作のフランス映画も以前観ましたが、山田洋次監督の手にかかると空気がまるで違います。柴又の風景、日本ならではの人と人の距離感。どちらが上ではなく、両方観るとそれぞれの良さが際立ちます。
見どころ③:「たった一日」に人生がまるごと詰まっている
壮絶な過去も、悲しみも、それでも今日を楽しもうとする姿も。観終わって思ったのは「すみれさんにとって、この一日は本当に楽しかったんだろうな」ということでした。
まとめ:あなたにも「思い出す人」がいるはず
この映画のすごさは、観終わった後に必ず誰かの顔が浮かぶこと。私の場合はあの奥様でした。腕をつかまれたときの、あの少し重くて温かい感触まで思い出しました。会えていない誰かがいる方、その人を思い出す準備をして観てください。
